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大阪高等裁判所 昭和49年(う)1192号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

〈前略〉

控訴趣意中法令適用の誤の主張について

論旨は原判示第一において、被告人有限会社善幸商事(以下被告法人という)の常務取締役としてその従業者である被告人中本善之が、奈良市西大寺町赤字田九八五番地、九八六番、九八七番の土地およびその周辺の土地合計約一、一〇〇平方メートル(以下本件土地という)について、奈良県知事の許可を受けないで、その区画形質の変更をした所為につき、被告人両名に対し都市計画法九二条三号、二九条、九四条のほか宅地造成等規制法(以下宅造法という)二四条三号、八条一項、二六条も適用しているが、宅造法上の宅地造成と都市計画法上の開発行為は同義であり、都市計画法は宅造法の特別法であつて、本件のように区画形質の変更にかかる土地の面積が一、〇〇〇平方メートル以上であるときは都市計画法二九条の開発許可申請をすれば足り、宅造法八条一項の許可申請は不要となるのである。しかるに原判決は被告人両名に対し右両法律を適用し、二重起訴、二重処罰の違法を犯している。また、原判決は原判示第三の一ないし三の各事実において、被告人中本が被告法人の業務に関し本件土地上の建売住宅を売渡すに際し宅地造成許可、開発許可を受けておらず、建物について確認を受けていないことを告げなかつた所為につき、被告人両名に対し宅地建物取引業法(以下宅建業法という)八〇条、四七条一号、八四条本文を適用しているが、宅建業法上の重要事項の範囲を定める同法三五条一項、同法施行令三条によると、建築基準法六条による確認を受けていないことは重要事項に含まれない。宅造法八条一項の造成許可を受けていないことは、一般的には重要事項にあたるけれども、本件の場合は区画形質を変更する面績が一、〇〇〇平方メートル以上であるから、前記のとおり宅造法上の許可は不必要であり、この点は告知すべき重要事項にあたらないこととなる。しかるに、これらについて宅建業法を適用した原判決は、被告人両名に関し法令の適用を誤つたものであるというのである。

所論にかんがみ案ずるに、原判示第一に関し、都市計画法上の開発行為は、同法四条八項に規定するとおり、「主として建築物の建築の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更をいう」のであり、宅造法上の宅地造成は、同法二条二号に規定するように、「宅地以外の土地を宅地にするため又は宅地において行なう土地の形質の変更で政令で定めるもの(宅地を宅地以外の土地にするために行なうものを除く。)をいう」のであつて、後者の政令である同法施行令三条は、切土、盛土についてその高さまたは面積が一定限度をこえるものが右土地の形質の変更にあたることを定めている。これらの規定のみによつてみても、前者は土地の区画の変更を包含する概念であつて後者と異なるのであるが、さらに都市計画法の目的が「都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする」(同法一条)のに対し、宅造法は、「宅地造成に伴いがけくずれ又は土砂の流出を生ずるおそれが著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域内において、宅地造成に関する工事等について災害の防止のための必要な規制を行なうことにより国民の生命及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする」(同法一条)のであり、その規制の目的、対象は異なり、かつ併存すべきものであること、また実際上も、一、〇〇〇平方メートル以上の比較的大規模な切土、盛土については、がけくずれ等による災害の防止の必要性が一層大きいと考えられることなどからすると、所論のように都市計画法が宅造法の特別法であつて、一、〇〇〇平方メートル以上の宅地造成については宅造法上の工事の許可が不必要となるものとは到底解せられない。従つて、原判示第一の事実につき右両法律を適用した原判決は相当であり、二重起訴、二重処罰の違法を犯したというにはあたらない。

次に原判示第三の一ないし三の法令適用に関し、宅建業法四七条一号が業務に関する禁止事項として、重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を掲げているのは、宅地建物取引業者による宅地および建物の取引の公正を確保し、もつて購入者等の利益の保護を図る(同法一条)ところにその目的があるものと考えられる。そして、売買の目的物件たる建築物が建築基準法六条の確認を受けたものでない場合には、県知事等の除却命令その他同法九条による是正措置の命令を受けることがあり、その場合には自己の費用でこれらの措置を行なわなければならないことからすれば、右確認の有無は、購入者の利益に関する重要な事項であることが明らかである。宅建業法三五条一項一号ないし一〇号および同項一号に基づく同法施行令三条は、宅地建物取引業者が売買の相手方等に対して説明すべき重要な事項を規定しているが、これらは、業者として契約締結までに説明すべき最小限度の事項を列挙したものであることは、同条一項に「業者は(中略)契約が成立するまでの間に取引主任者をして、少なくとも次の各号に掲げる事項について説明をさせなければならない。」とあることからも明らかであり、右列挙中に建築確認に関する事項が含まれていないことは、これを同法四七条一号の重要な事項と解することの妨げとなるものではない。また、形質を変更する土地の面積が一、〇〇〇平方メートル以上であつても、宅造法上の工事許可を要することは前示のとおりであり、本件についても右許可を受けていないことが宅建業法四七条一号の重要事項にあたることは明らかである。従つて、これらの不告知に対し右法条を適用した原判決は相当である。

以上のとおり、法令適用の誤の論旨は理由がない。

控訴趣意中審理不尽ないし事実誤認の主張について

論旨は、原判決は、原判示第一において、被告人中本が都市計画法二九条の開発許可を受けないで本件土地の開発行為をした旨、都市計画法違反の事実を認定し、同第三の一ないし三において、右許可のないことを知りながら建売住宅の買主らにこれを告げなかつた旨、宅建業法違反の事実を認定しているが、同被告人は本件土地の面積が一、〇〇〇平方メートル以上であることを知らなかつたから、これらの法律違反についてはいずれもその故意がない。原判決が右宅建業法違反について同被告人の故意を認定したのは、審理不尽によるものである。さらに、原判決は原判示第三の三において、被告人中本が近藤宏に対する建売住宅の売買の当事者であることを認定しているが、この売買の当事者は同被告人ではなく山崎幸太郎である。原判決はこれらの点で被告人両名に関し事実を誤認したものであるというのである。

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、原判決の挙示する関係証拠によると、原判示事実を優に認定することができる。

すなわち、原判示第一および第三の一ないし三の点につき、被告法人が本件の土地三筆を町田忠から買入れるに際し、被告人中本は被告法人の常務取締役として、売買契約締結前に、測量士倉田一清の作成した実測図を見たので、その実測面積が1,029.6平方メートル(三一二坪三合九勺)で、これだけでも一、〇〇〇平方メートルをこえることを知つており、これに坪単価を乗じて買取価格を算出した事実があること、原判決の認定にかかる本件土地の地域は、右三筆のほかその周辺の土地の一部約七〇平方メートルを加えた地域であり、同被告人自身検察官調書および原審公判廷において、この周辺の土地の一部を加えれば一、〇〇〇平方メートルを越えることは分つていたと述べていること、なお右三筆の土地の買入後、土地埋立をした林重之が測量した結果では右三筆の面積は九五〇平方メートルであつたというのであるが、この測量結果は、前示倉田の測量結果および司法警察職員の実況見分調書に対比して措信できないうえ、右九五〇平方メートルに前示周辺の約七〇平方メートルを加えればやはり一、〇〇〇平方メートルを越えることなどからすると、同被告人が当時本件土地の面積が一、〇〇〇平方メートル以上であることを了知していたものと認めることができる。従つて原判決の認定は相当であり、審理不尽ないし事実誤認はない。

次に原判示第三の三につき、原判決は被告法人が原判示別表番号3の土地建物を近藤宏に売渡すに際し、被告法人の従業者である被告人中本において重要な事項を告知しなかつた旨を認定しているもので、被告人中本を売買当事者として認定したのではないことはその判文上明らかであり、押収してある売買契約書その他記録を精査してもこれと異なる認定をすべき証拠はない。所論は右売買契約書の作成にあたつたのは被告法人の専務取締役山崎幸太郎であつて被告人中本ではなく、従つて同被告人が重要事項の告知を怠つたものではないという趣旨とも解せられ、証拠上も被告人中本が右契約書作成に立ち会つたかどうかは明らかでないけれども、宅建業法四七条一号、八〇条、八四条は、宅地建物取引業者またはその従業者等が売買の相手方に対し重要な事項について故意に事実を告げない等の行為を処罰するものであり、売買契約書作成に関与したかどうかを問わないから、被告人中本が被告法人の常務取締役たる従業者また取引主任者として、右山崎とともに直接近藤に対する売渡しの交渉にあたつていたことが認められる以上、契約書作成に立ち会つたかどうかにかかわりなく、重要な事項を告知すべき立場にあつたということができ、同被告人に対し宅建業法違反の事実を認定した原判決に事実誤認はない。

以上のとおり、審理不尽ないし事実誤認の論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、本件各犯行の態様、その行為の規模、回数等に照らすと、被告人両名の刑事責任を軽視することはできず、所論の諸点を検討しても、被告人両名に対する原判決の刑が重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

なお、原判決はその適条において、被告法人に対する第一の事実につき宅造法二四条三号、八条一項、二六条違反(五万円以下の罰金)、都市計画法九二条三号、二九条、九四条違反(一〇万円以下の罰金)の観念的競合を認めて刑法五四条前段(同条一項前段の誤記と認める)、一〇条と掲記しながら軽い前者の刑で処断している誤りを犯しているのであるが、本件の場合には第一ないし第三の各罪につき刑法四五条前段、四八条二項により所定罰金額を合算する結果、右第一につき重い都市計画法違反罪の刑に従い正当に法令を適用した場合の処断刑は罰金五五万円以下、原判決の処断刑によると罰金五〇万円以下となるが、原判決の罰金三〇万円の宣告刑が正当な処断刑の範囲を逸脱せず、また原判決による処断刑と正当な処断刑との差異は比較的僅少であつても、後者によつても必ずしも原判決と異なる刑を言渡すべきものとなる蓋然性があるともいえないことからすると、原判決の右法令適用の誤は、いまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとも断定しがたいところである。なお原判決の適条のうち第二の各事実について、建築基準法九八条一項二号とあるのは、同法九九条一項二号の誤記と認める。

よつて、各被告人につき刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

(藤原啓一郎 野間禮二 加藤光康)

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